宇部の発展のシンボル、普段は立ち入ることのできない屋上へ。
近代建築の巨匠 ル・コルビュジエの影響を強く受けたと思われる、優美な曲線に酔いしれる。
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2階から更に上へ。
一枚の岩から削り出されたという手摺の男性的な力強さ。
これだけでひとつの彫刻作品として成り立ちそうだ。
開放感あふれる屋上テラス。このスペースこそがこのホールにおける個人的ハイライト。
普段人が出入りするところではない場所に、あえてゆとりを持たせた設計。
こうやって外壁の塩焼きタイル(殆どがレプリカの還元焼成タイルだが)を近くで見ると、表面は均されておらず、あえて突起部分が作られているが、まるでオルゴールのようで面白い。
美しい曲線の合間から時折覗く鋭い直線。
柔らかさの中にあって一層シャープさが際立つ。
落ちる影まで意匠的。
コルビュジエ?いや、これが村野だ。
残念ながら現在は螺旋階段を昇ることはできない。
最上部、壁面のスリットもホール正面から遠目で見るのとは随分印象が異なる。
写真中央やや左に見える高層ビルは、同じく村野の設計による宇部興産ビル。(あれ?あんなクレーン乗ってたっけ?工事中?)
ちなみに手前に見える踏切は、社会現象にもなった某アニメ映画にでてくる聖地だそうで。(未だにTVシリーズ以外見たこと無いのよね…)
すぐ隣に見える屋上庭園は、隣接する宇部市文化会館の和室。こちらも村野の設計である。
同じ敷地内に氏の初期の建築と晩年の建築が同居するこのロマン…、筆舌に尽くしがたい。
宇部市内にはこの渡辺翁記念会館をはじめ、宇部興産ビル、宇部市文化会館など、全部で6つの村野建築が存在する。
これは以前にも載せたことのあるトマソンの写真であるが、実はこのトマソンが付属する建物も村野建築の旧宇部銀行本店(現ヒストリア宇部)である。おそらく夜間金庫だったのでしょうね。
実は宇部にはこの他にも、宇部市図書館やゴルフのクラブハウスなどの建築設計図が見つかっており、アンビルドとなってしまっているものの、村野が生涯を通じて宇部市と深い繋がりを築いていたことが伺える。
さて、最後に渡辺翁記念会館と文化会館の間にある中庭を見ていこう。
1階ホール下手側の通路から見える竹林。向こう側は文化会館。外に出てみる。
木陰に差し込む陽光が気持ち良い…なんて言ってる余裕がない8月の暑さ。
なんでわざわざ外に出てきたかというと…
先程外壁の塩焼きタイルは、ほとんどがレプリカの還元焼成タイルだと言うことを述べたが、実は側面や後面には少し残されているのだ。
塩焼きタイルは経年によって(紫外線の影響?)白っぽくなる性質を持つ。
写真だと少し分かりづらいが、このあたりだろう。良く見ると、正面のタイルは白っぽくざらついている。右側の新しいタイルと比べると一目瞭然。
多分のこの左の列もじゃないかな。
製造時に食塩釉を用いることから焼成時に塩素ガスが発生するため、現在は製造されていない塩焼きタイル。村野は生前「土管のような艶のある窯変色が好き」という風に言っていたと何かで読んだ気がするが、このタイルを好んで使ったのもそこに着想を得たそうだ。
さて、これにて3度に渡って紹介してきた渡辺翁文化会館の特集もおしまい。
これからも市内の文化活動の発信地として、より一層の発展を期待したい。
それでは。