カルスト台地特有の窪地内に形成され、他郷からは隔絶された小さな集落。
複数残るベーハ小屋が印象的な幽幻の地で受けた、温かいもてなしに感無量。
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上記過去記事に登場する「別府弁天池」から下関方面へ戻る道すがら、江原ウバーレ集落と書かれた案内板を見つけた(写真撮ってない)。聞いたことはあるが、訪れたことのないところだ。よし、行ってみるか。
そもそも「ウバーレ」というのは、カルスト台地特有の地形で、石灰石が雨や地下水などで溶かされできた「ドリーネ」と呼ばれる陥没地形が複数繋がったものを指す。もっと規模が大きくなれば「ポリエ」と呼ばれる。
林道というほどでもないがそこそこ険しい峠道を車で走ること数分、突然視界が開けた。
「江原」と書いて「よわら」と読む。表高低差はおよそ40mほど、青々と茂る山林の中に、隠れ里のような集落。
撮影は7月、この日は夕刻に予定があったため、ここから眺めたのみ。
というわけで秋口に再訪。
色づく景色。
さて、集落内へ。
もともとこの地は平家の落人(おちうど)が逃れてきて入植した、という説を聞いたことがあったのだが、お会いした地元の方によると、関ヶ原の戦いで敗戦した落武者たちが逃れてきたそうな。ちょっと時代が離れすぎててハテナ?な感じだけど、この地形ができるまでに要した何万年もの歳月を考えると誤差みたいなものでしょう。詳しい考証はどなたかお願いします。
日本最大のカルスト台地である秋吉台に隣接する場所であるから、集落内には至るところに石灰石が露出している。
集落内には川は見られず、降った雨は集落内の最深部(と言っても標高170mぐらいある)に数カ所ある「吸い込み穴(=ポノール)」へと流れ、地中へ落ちていく。
こことか
こことか
これとか。落ちたら一巻の終わりですね。
大雨のときは氾濫することもあるらしい…
このように水はけが良すぎる地域であるから、稲作は望めないため、畑作が主流であったという。
同時に養蚕も行われていたようで、1940年頃からはたばこの栽培も盛んになり、今でもその名残のベーハ小屋(たばこの乾燥小屋)も数軒見られる。
越屋根の部分は換気口。室内に吊るしたたばこの葉を、薪を焚いたかまどの熱で温め人工乾燥させる。
いっぺんに複数のベーハ小屋が見れる機会なんてそうそう無いだろう。
ぼく自身、大分と島根で1軒ずつ見かけたぐらいしか無い。
こんなタイプもある。
これもかな。
高台にあるあの小屋の雰囲気が良すぎて…ちょっと近くで見てみよう。
ちょうどお庭で作業中のお母さんがいらっしゃって、いろいろとお話を聞かせていただく。
集落内のベーハ小屋は、今ではほとんどが物置か椎茸などの乾燥に使われているそうな。
斜面に建つ家屋たちは、石垣を用いて平地を確保している。
感動を禁じ得ない。
薪小屋も見られた。今でも稼働しているベーハ小屋があるってこと…?
母屋と別に納屋兼作業場があるお宅の割合が多い。
かつては馬や牛の小屋であったりもしたようだ。
これはベーハ小屋の名残り…じゃないよね。
閉ざされた寒村…というわけでもなく、比較的裕福な集落だったようで、立派なお宅が多い。どうやら畑作での収穫量が多く安定しており、また稲作ではないため租税の徴収も緩かったのではないだろうか。他地区に水田を買う村人もいたようである。
無住になってしまったお宅もいくつか見られる。
立派な屋敷はお医者様の邸宅だそう。
集落内を散策していると、とあるお宅の庭先で声を掛けられた。
「兄ちゃん、猪肉食っていかんかね?」
突然のお誘いに驚いたが、せっかくなのでご相伴にあずかることにした。
住人の藤村さんはこの地で建設会社を営み、立ち寄った人に集落内を案内したり宿泊させたりといった活動をされている。夏の時期には「幽幻ナイト」というライブイベントも実施しているそうだ。霧深い郷にピッタリのネーミングである。
ぼくも田舎住まいなので、たまにジビエを頂いたりすることがあるのだが、丁寧に処理された猪肉は全く臭みがなく、脂の甘さと野性味の強い旨味がたまらない。
美味すぎワロタwww
この地にまつわる伝承などについて非常に興味深いお話を聴かせていただき、帰り際には「奥さんにも食べさせてやりなさい」と持ち帰り用にお肉と奥様お手製のタレ(これがまた美味いのよ)まで持たせてもらい…😭
本当にありがとうございます!😊
お会いした住人の方々はみな温かく、住居の大半が斜面に沿った集落の暮らしの大変さを語りつつも、澄んだ空気に広がる星空の美しさに勝るものはないと言っておられたのが印象的であった。
アーバンでスタイリッシュな暮らしに憧れる我々が、「田舎暮らしっていいな〜」なんて軽い気持ちで言ったところで何も響かない。しかしこの地に住む人達からは、不便さを受け入れてもこの地での暮らしの素晴らしさを享受したい、という気持ちが伝わってきた。本当に皆さん口を揃えて「いいところだよ」と言っておられたのだ。
また必ず訪れよう。
さて、今回はここまで。
それでは。
つづき