その昔、門司港側から裏門司と呼ばれた周防灘に面した地区へ訪れるには急峠を超えなければならず、交通の難所であったと言われる。現在ではトンネルが開通し、道路も整備され不自由なく通れるようになったが、トンネルの上には旧トンネル、更にその上に峠道が今でも残っている。
先人たちに倣い、峠を歩くことでまちへの理解を深めることにしよう。
以前にも書いたことがあるが、門司は全国でも有数の階段の多いまちである。
国道3号線沿いの斜面にそびえる家屋軍を見れば一目瞭然であるし、大半の人はそのあたりを想像するであろうが、丸山〜黒川間を結ぶ桜峠と呼ばれるエリアの周辺にも、古い階段が密集する地帯がある。
丸山吉野町、今回はこちらから攻めていこう。
いきなり美しいカーブを持つ階段。門司だというのにあえての赤色煉瓦。
フェンスの奥…おわかりいただけただろうか…?
こんちは。
昇った先には、細く入り組んだ路地。
緑がよく映える。
なにやら気品の良さを感じる一角。丁寧に設えられた石段に、透かし積みのレンガ塀…
降りていく途中に、飾り窓を持つお屋敷。現在は使われていないようであるが、料亭だったのだろうか?
先程の屋敷は、写真右手の高く積まれた石垣の上に建つ。
さぞ見晴らしが良かったであろう。
突き当たりまで降りて、一度振り向く。
なんとも形容しがたい、この情動…自然と口からこぼれ落ちた言葉は、「美しい…」。ただそれだけ。
己の感情を発露する表現の乏しさに、いささかの寂寥感を覚えるが、この美しさを修飾しようとすればするほど、陳腐に感じてしまうのだ。
セピアの風景の中に、ぽつりと落ちた椿の花だけがビビッドに映える。
我、無語彙力。表現を放棄した。
ちなみにこの階段、二階堂のCMでも使われている。
すき。(語彙力消失につき、回復までもう暫くお待ち下さい…)
階段の麓には、おそらく階段状の屋敷の家主が設えたであろう石畳が長く続く。いかに格調高かったのか伺える。
この周辺はかつて旅館や料亭や多くあったという話を聞くが、急傾斜地の宿命からは逃れられず、空き家率の高さ・廃墟化が深刻な問題だ。
季節によって色んな表情を見せてくれそうだ。
土煉瓦の温かみもいいが、やはり北九州といえば鉱滓煉瓦。
庭木を避けて緩やかに高さが変わるさまがエレガント。
古い階段と、新しい階段。黒と白のコントラスト。
裏門司へ至る県道25号線の丘陵部にある桜トンネル、その手前のコンビニ横の脇道に逸れると、旧桜トンネルへと向かう。
これはいいトマソン階段。
暦の上では春だが、まだ実際に春の暖かさを感じるには早い時期、バルボコディウムの蕾が満開になるのが待ち遠しい。
峠アタックする前に、ちょっと寄り道。
苔むした階段を昇る。
美しく整えられた階段もいいが、真に琴線に触れるのは、こういった階段かもしれない。
もとより「映え」だの「フォトジェニック」などには興味がない。自分が良いと思うものを求めて歩くのみだ。
おや?降りた先の水路の中に何かあるようだ。
マンホールだ!こういったタイプのマンホールは初めて見た。
水路、橋、石段、煉瓦、石垣、ブロック塀、配管…すきなものが凝縮された空間。
狭い路地を進めば、水路にまたがる家屋。いいね。
さて、今回はここまで。
小さな町だが、かなり高低差があって面白いぞ、丸山吉野町。
最後に、例の石段の最近(初夏)の様子を。
それでは。
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