宇部興産の前身である冲ノ山炭鉱組合、宇部鉄工所、宇部セメント製造、宇部窒素工業などを興し、宇部市の経済を牽引した渡邊 祐策(すけさく)。その本邸 「松巌園(しょうがんえん)」や、国内における歴史的な音楽ホールである「渡辺翁記念会館」が所在する島地区。
文化的なランドマークの多いこのまちで、美しい石段と坂道に出会った。セメントのまちのイメージを覆すほどに強く訴えかけてくる文学性に、心を揺さぶられずにはいられまい。
宇部市の階段巡りの記事
その小字のとおり島地区は小高い丘のような島状の土地であり、高潮から身を守るためだろうか、前述の渡邊祐策翁をはじめ、歴代の宇部市長も邸宅を構えていた。
そしてこのエリアには数は多くないものの、非常にエモーショナルな階段と坂道が存在する。
道の両端が石畳になった坂。渡邊邸の正門へと至る道。
この高低差!
横から見ると、表面だけの設えでは無いことが分かる。石積みの坂道。
当時の主たる交通手段であった人力車を引く人に負担がかからないよう、祐策翁が石畳にしたそうだ。
中央部分は砂利引きだったものを、水道を通したためだろうか、現在はアスファルト舗装になっている。
他にもこの周辺の坂道は、表面をアスファルト加工されつつも、横から見ると同様に石積みのものが見られた。
ちなみに写すのを忘れてしまったが、この坂道の側溝の底面はレンガ敷きであった。なんと豪華な。
もう一つ美しい坂道を。
煉瓦の積み方の丁寧さ、その上に乗るコンクリブロックの角度…。たまんない。
反対側から。
左側の石垣は布積み、その上に桃色煉瓦(これも宇部ならではらしい)、コンクリブロック。右側が間知積み、その上はコンクリ打ちっぱなし。
奥に見える、アールをもった煉瓦塀も愛おしい。
この日の白眉。
緩やかに湾曲する石畳の坂道、その先に石段のコンビネーション。
鉱滓煉瓦と桃色煉瓦が同居していることにも注目したい。
まるで裾野に向かって水が流れる様を見ているかのよう。
松巌園の周辺で見つけたトマソンも、またこれらの坂道・石段に引けを取らない美しさであった。
残された煉瓦塀に宿る超芸術。
まず無用階段が目を引く。
門扉のロック部分?でべそタイプ。
レール状の溝がある。
余談であるが、松巌園は立派な日本家屋であるものの、宇部興産のような日本を代表する企業の創業者の邸宅にしてはあまり豪奢な感じはしないな…と思っていたら、祐策翁は贅沢を是とせず、教育機関や鉄道、道路、上水道、港湾等の社会基盤を整備することに多額の私財を投じたと言われる。
山口県民にはおなじみの"ときわ公園"は祐策翁が購入した土地の寄付らしいぞ。とんでもない広さやん…
同じく島地区にあり、祐策翁の功績を讃えて建てられた渡辺翁記念会館は、建築家 村野藤吾氏の出世作として、また音響の良いホールとして名高いようだ…。ん?
ぼく自身何度も演奏したことのあるホールだが、正直なところ音響は最悪だと思う。周りからも音がいいとか言う評価は聞いたことがない。まぁ現代の音響設備と比べるのは酷かもしれない。
ただ近代建築としては実に素晴らしいと思う。普段は立ち入れない屋上のデザインなんて、村野建築の源流ここにあり、といった感じだ。
宇部市に村野が設計した建築物が他にもいくつかあるが、それらは改めて別の機会にじっくりと紹介したい。
最後に、島地区で発見したちょっと残念な階段。嫌いではない。
それでは。